私はどちらかというと、思い悩むタイプの人間です。木の種類や木目の状態によって、どんなものを作るのが良いのか、使い手にとって必要とされる形はどんなものだろうか。あらゆる可能性を想像してみては、作品を作り続けています。

木の生きた痕跡は、木目に現れます。
急傾斜地や湿地、貧栄養な岩場、時に大風で枝が折れたり、虫が入り込んだり、森の中での様々な出来事が、木目の中に刻まれています。
木は物質であると同時に、生き物です。

木材のほとんどは、中川の森から。
毎年、春に「どんころ」たちを、切り分けて、はじめはゆっくり乾く、下のほうの棚へ、そして湿り気が薄らいで来たら、もう少し高いところに、さらに、カラカラになってきたら、もっと高いところに、少しづつ、様子を見ながら場所を変え、ゆっくりゆっくり乾燥させます。
ありがたいことに、行き場のなくなった木材を持ってきてくれる人もたくさんいます。
そんな様々な木材たちを、せっせと仕分けして、どんなふうになりたい?と問いかける時間は、可能性に満ちた前向きな時間です。

刃の当て方ひとつで、木くずの飛び散り方は変わります。
先を急いでグイグイすすめると、猛烈な勢いで木くずが飛び上がり、針を刺すような痛さでぶつかってくる。
繊細な仕上げのためによく研いだ刃をそっとあてれば、糸のように柔らかな木くずがふわふわと舞い上がる。
気を抜けば、刃が過剰に食い込み、ボンッという劇音ののち、脱落した木材が宙を飛ぶこともある。その時間はまるで、木との問答の時間。
制作の中でもっとも、緊張感をもって挑むお仕事です。

髙橋綾子 / Ayako Takahashi

1985 福島生まれ、仙台育ち。
環境調査会社に勤め東北の山々を歩き回る。
多くの木材商人が山にはもう木がないと嘆く一方で、多くの林地残材が存在している現実に矛盾を感じ、つくりてとなることを決意。
宮城、山形、東京で木工を学び歩き、挽物の世界に入っていく。
2014年 北海道の中川町へ移住し、本格的な制作活動を始動。
うつわやアクセサリーのほか、ウッドバーニングの手法で樹種にちなんだ紋様を絵付けした柄物シリーズなども製作している。